大阪城一の美貌。木村重成の講談まとめ

2022年7月29日

今はほとんど知られてませんが、大阪冬の陣、夏の陣で活躍した名将に、

「大阪城の花!」

「梅の香りを桜の花に通わせたような……」

なんて、最上級の褒め言葉で称えられる人がいます!木村重成(しげなり)です!

このページでは大阪城一の美貌で知られる、木村重成の生涯を講談からご紹介します。

産まれた瞬間、お父さん切腹!

木村重成のお父さんは木村重玆(しげこれ)といいます。重玆がお仕えしていたのは、太閤秀吉の養子の秀次(ひでつぐ)。

大河ドラマで時々やることですが、秀吉は子供に恵まれなかったので、秀次を養子にしていて、後を継がせるつもりでした。が!年取ってから実子の秀頼が産まれたので、秀次は単なる邪魔者になってしまいます。そこで、秀吉はあることないこと罪をかぶせて、秀次を自害に追いやり、家来や一族も皆殺しに……。日本史に残る闇事件です……。

なので、重玆も巻き添え食ってヤバい立場に。重玆は忠誠無比の侍でしたので、自ら進んで切腹したんだとか。泣かせますね!

影の薄~い重玆ですが、実は雨月物語の「仏法僧(ブッポウソウ)」にユーレイになって登場してるよ!ご主人の秀次も一緒に登場。興味ある人はこちら!
【雨月物語】エライ人の怨霊ストーリ、2選!

重成、五歳で修業に出される!

さて、お父さんが切腹しちゃった木村一家。超困ってます。お母さん一人じゃ、息子を立派な武士に育てることは困難です。

重成は幼名を春千代(はるちよ)と言いまして、名前の通り、産まれた時から少女と見まごう美しさ!元気に育っていきますが、お母さんはかなりのスパルタでして、春千代が五歳になった瞬間、

「これ、春千代。お前を父上のご友人、佐々木義郷(よしさと)公にお預けすることにした。義郷様のもとで文武に励み、立派な武士になるように。今日からは、母があると思ってはなりません。お前が一人前になるまでは、二度と会いませぬ

と、この言葉!春千代、さすがに大ショックですが、親の命令は絶対の時代です。涙ながらに佐々木家へ行き、朝から晩までビシバシとしごかれるのでした。

人生、堪忍が一番大事だぞ

春千代はとってもお利巧なので、武芸も学問も良くできます。でも意外と短気。乱暴な遊びが好きで、たびたびケンカをすることも。

そこで先生の義郷(よしさと)、春千代を呼んでこんこんと説教。

「愚か者め!人間にとって一番大事なものは学問でも武芸でもない!じっと耐え忍ぶ堪忍こそ大切なのじゃ。どんなに武芸ができても、カッとなって暴れだし、命を落とすことになっては何にもならないのだ!」

春千代、しみじみとこの教えに感激。その後、二度とカッとなって怒ったりはしなかったそうです。なんというおりこうさん!

ついに元服。重成になる

春千代もついに十七歳です。

義郷が烏帽子親(えぼしおや)になって元服し、木村重成と名前を改めました。

「重成とは、何事も成し遂げるという意味があるのじゃ。しかも、お前のじいさんも同名で二重にめでたい。ところで重成よ。お前は富貴を望むか。名を望むか

「はい、人はただ名こそ惜しけれ。あっぱれ武士の名を成したいと思います」

「ふむ、富貴を望むなら関東へ随身し、名を望むなら父祖の代から仕えた大阪へ行くがよかろう

と、こういうことで十二年間お世話になった佐々木の家を出、重成はさっそうと大阪城へ行くことになったのでした。

大阪城は淀君中心でヤバいことになっている……

さて、木村重成は秀頼公にお目通りして、長門守(ながとのかみ)に封ぜられ、秀頼の近習となりました。大阪城には重成のお母さんも奥勤めしていたので、母子は十二年ぶりの再会を果たしてハッピーだったのですが……。

この時、大阪城はヤバいことになってました。

秀頼のお母さん。日本史でも悪女で名高い淀君(よどぎみ)がいたからです!

淀君は派手好き!口うるさい!気が強い!の三拍子で、政治にもいちいち口出しするし、秀頼も気が弱いし生みの親の言うことだから、全然反対できないのです。

秀頼が家臣たちと一緒に狩りに出かけようとするだけで

「そんな恐ろしいことはダメ!母は許しませんぞ!」

と金切声で反対、狩りをぶっ潰すという毒親ぶり

しかも、淀君に追従してハバを利かせている大野一族というのがいて、(この一族の大野修理介というのが、秀頼の本当の父親じゃないかと言われてますね)こいつらが淀君に可愛がられてることをかさに着て、威張りくさってるのです。

これじゃ、大阪城はメチャクチャです!どうする、重成!

智徳院、蠅(はえ)坊主になる

大野グループの大野主馬(しゅめ)は、重成が大っ嫌いで、何とかとっちめてやろうと思ってます。

というのも、重成が実に生真面目な性格で行いが正しいので、秀頼からの信頼が厚いし、その上、たびたび正論を談じて大野をへこますことがあるからです。

ここで大野は城につとめている智徳院(ちとくいん)に目を付けます。この智徳院大変な荒坊主で乱暴者。暴れるのが大好きな暴○族みたいなやつです。

この智徳院に、大野がヒソヒソ。

「おい、木村重成が貴殿のことを馬鹿にしていたぞ。お前は力自慢だが、自分なら指一本で倒せると言ってたぞ」

思いっきりテキトーな嘘なんですが、残念ながら智徳院はバカです。

「何イ!許せん!思い知らせてくれるわ!」

カンカンに起こったあげく、重成が廊下を通るのを待ち伏せして通せんぼ。重成がわきにズレて通り抜けようとすると、イキナリ「こら!わざとぶつかったな!」と言いがかりをつけ、拳骨でバコーン!

……幼稚園レベルの嫌がらせ。でも重成はエラいからおこりません。

「ここで喧嘩が起こったら、わたしも智徳院も腹を切らねばならん。智徳院もいざ戦が起これば、役に立つ人物。ここで二人も命を失うのは、主君にとって損にしかならない

こう考えてじっと我慢です。手をついて「すまなかった」と言って通り過ぎて行ったのでした。

後で、この出来事を聞いた重成の友人が「何で仕返ししないんだい」と尋ねますと、重成は「汚いハエは食べ物の上でもどこにでも汚い足で止まる無礼者だけど、別にそれに一々腹を立てたりしないでしょう?」と澄まして返事。

すると、このお返事が大阪城の人々の間で大ウケ!智徳院は「蠅坊主、蠅坊主」と呼ばれるようになってしまったのです。

智徳院、押しかけ家来になる

さて、皆から蠅坊主と呼ばれるようになってしまった智徳院。もうカンカンです。

「何としても仕返ししてやる!」

と、また拳骨振り回して重成を探します。と、風呂場でのんびりしてる重成の後ろ姿を発見!大喜びの智徳院、そ~っと近づいて、いきなり後ろからドカーン!

が、この殴られた人物、重成じゃなくて大力の豪傑で知られた薄田隼人(すすきだはやと)全然人違いだったのです!

「なにしやがる貴様!ぶっ殺してやる!」

と、薄田隼人は頭から火を噴いて大激怒。「ひい!許してください!」とアワアワしてる智徳院を捕まえ、「さあ殴られるのが気持ちいいか悪いか、思い知らせてやるぞ」と、拳骨を振り上げました。

すると、ここに重成が登場。薄田隼人の腕を捕まえ、

「隼人殿、この者を許して下され。この者も、戦ではあっぱれ役に立つはず。それを殺すのは主君に対し申し訳ありません。わたしはもう許してやりました。だからあなたも許してやってください」

この言葉には、智徳院も心底反省して大泣き。「どうか今までの御無礼を許してください!」と泣いてすがり付き、どうしても家来になると言ってダダをこね、ムリヤリ重成の家来になっちゃったのでした。

真田幸村を軍師に迎える

さて、この大阪城には片桐且元(かたぎりかつもと)という執権がいたのですが、片桐はたびたび淀殿に意見するのですっかり嫌われ、大阪城から出て行くことになってしまいました……。

片桐の忠誠無比の人柄を慕っていた木村重成、無念でなりません。片桐の住まいを訪ねると、片桐は涙ながらに

「わしは今後、この館に身を潜め、陰ながら我が君を長さえする覚悟……。それより長門殿(重成)、わしは身を退くにおいて、一つ置き土産があるのじゃ

「ほう、して、その置き土産とは?」

「ふむ、古今稀なる名将を一人、お勧めしたいのじゃ。元信州上田の城主、真田昌幸(さなだまさゆき)の二男、今は紀州九度山に住む真田幸村(ゆきむら)でござる」

「オオ!あの、楠木正成(くすのきまさしげ)、諸葛孔明(しょかつこうめい)にも勝るという、智謀の名将でございますな!」

「うむ、ここにわしの推薦状があるから、長門殿、誠意を尽くして幸村殿に、入城を承知させてくだされ」

こうして、木村重成は真田幸村をリクルートすることになったのです!

この幸村という人、関ケ原の合戦の際、徳川家康の息子、秀忠の大軍を見事に食い止めたことで、一躍天下に名が知れ渡った名将です。でも、関ケ原の合戦が大阪方のボロ負けになってからというもの、幸村は故郷の上田から紀州の九度山に追っ払われていたのです。

重成が手紙を持って九度山へ行くと、「片桐且元が大阪城を去った」というニュースを聞いて、幸村は渋い顔。

「片桐殿ほどの忠臣が去ったとは……。それでは、拙者が軍師になったところで、関東に勝つことは到底おぼつかないだろう」

でも、重成は諦めません!「そこをなんとか!」と再三頭を下げ、必死にお願いします。幸村、ついにこの熱意に押されて

「御身の誠忠、ほとほと感じ入った……!」

と感激して大阪入城を決意するのでした。

大阪冬の陣!今福砦で重成激戦!

いよいよ、大阪冬の陣が始まりました!徳川勢はすごい大軍勢を率いて、関東から押し寄せます!

これに対し、大阪の秀頼公は真田幸村に采配を預け、幸村ははかりごとを用いて、散々に関東勢を退けます。そしてついに、十一月二十五日、両軍の間で凄まじい戦いが起こったのです!

佐竹義宣(さたけよしのぶ)という武将が、大阪城の今福砦(いまふくとりで)を落とさんとして、ドッとばかりに押し寄せてきた激戦。これぞ、今福砦の戦いです!

突然の奇襲に味方は浮足立ち、あっという間に三の木戸まで敵が押し寄せてきます。ここを破られたら、もう後がありません。この時、軍師幸村が目をつけたのが木村重成。

「木村氏(うじ)、ご苦労ながらさっそく出馬いたされて、ご加勢あれ」

「ハハッ、武門の面目でござる!」

重成、これが初陣です!勇み立って手勢を率い、一気に攻めかかります!まずは鉄砲隊で敵を怯ませ、ワアッとぶつかっていきました。

重成は佐竹方の勇士、正木大膳、小山勘兵衛らを次々倒し、目にも鮮やかな活躍ぶり。その後、関東方には上杉勢まで加わりましたが、重成は豪傑後藤又兵衛とタッグを組んで、見事に追い返したのでした。

重成、血判取りで家康をへこます

大坂冬の陣はズルズルと長引き、なかなか勝負がつきません。ついに関東方から和議の申し入れがありました。

大阪方も賛成して、とにもかくにも神文誓紙の取り交わしをすることになったのですが……この神文誓紙には、相手の対象の血判を取らなければなりません。この血判取りの役目がなかなかの大役です。敵方からごまかしの神文やニセモノの血判をつかまされたら一大事だからです。

そこでこの大役に木村重成が任されることになりました。

重成が家康の陣中へ行きますと、徳川勢はここぞとばかりに威勢を示そうとして、数万の軍がズラッと並び、槍、長刀、鉄砲を構えて重成を脅しつけます。しかも重成に対し、

「陣中では下馬いたせ!」

と高飛車な態度。ところが重成は

「お黙りめされ。わたくしは内大臣家の名代。家康殿とは同官ですぞ。道を開けられい」

と堂々たる言葉。兵たちを引きさがらせてしまったのです。

家康の御座所へ行っても、あれこれと重成をハメようとする罠。「ここにご着席ください」と言われた場所ははるか下座。重成はこれも叱り飛ばして

「敷物を持て!」

と命じて、家康の真正面に着席します。家康を目の前にしても、「今日は内大臣家ご名代。同格でございますから」と、決して頭を下げません。

家康がニセモノの神文を出してきても、これに目を通して「この状について一筆も書いてないじゃないか」と看破。刀に手をかけて家康を脅しつけ、ホンモノの神文を出させたのでした。

いよいよ血判を押す時も、家康の血判をつくづくと見て

「これはいくら何でも色が薄い。もう一度押し直せ」

とケチをつけ、やり直しをさせました。後で「あれは押しマチガイだ。ホントには血判なんか押してないんだ」と、イチャモンを言わせないためです。

こうして、見事に重成は血判を取り、使者の役目を全うしたのでした。

約束を破った家康!大坂夏の陣

しかし!ちゃんと血判を押したくせに、家康はたった五カ月で約束を破ります。再び大軍を起こし、大阪城に攻めてきたのです。これが、世にいう「大坂夏の陣」です。

今回の大戦、大阪方には全然勝ち目がありません……。というのも、

著者プロフィール

坂口 螢火
坂口 螢火
歴史専門のライターを目指しています。

古典と神話が好きすぎて、ついに家が図書館のように……。

1月30日に、拙作「曽我兄弟より熱を込めて」が販売されます!立ち読みも大歓迎。ぜひ読んでね!

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Posted by 坂口 螢火