【雨月物語】愉快なお話、2選!

2022年5月22日

雨月物語は、全体的に「呪い」「恨み」「ドロドロ」と、実に物騒なお話ばっかり集めた作品なのですが、中には穏やかで微笑ましいものもあります!と言っても、二つだけですが……。

「夢応(むおう)の鯉魚(りぎょ)」「貧富論(ひんぷくろん)」です。

今回は「雨月物語、楽しい話特集」をご紹介いたします!

夢応(むおう)の鯉魚(りぎょ)

これは魚の絵を描くのが大好きなボーさんが、魚のおかげで命が助かった不思議なお話。ボーさんとコイの仲良しっぷりがナイスです。

コイ大好きな興義(こうぎ)

昔、琵琶湖の近くの三井寺(みいでら)に興義(こうぎ)という坊さんがいました。この坊さん、絵の名人でしたが、ことにコイの絵は達人級。

とにかくコイが大好きすぎる坊さんは、頻繁に琵琶湖に行っては漁夫たちの船を止めて

「ああ、これこれ、釣れた魚を全部わしに売ってくれ」

と、魚を大人買いしては、ザバーッと湖に戻してやってニコニコしてるのでした。「もったいない!」と漁夫たちは騒ぎましたが、「ほれ、見なさい。あんなにうれしそうに泳いでるじゃないか」とうれしそう。

さて、この坊さん、ある晩コイのことを考えすぎて、コイの夢を見ました。夢の中ではそれはそれは見事なコイが水の中でゆったりと泳いでいました。

目を覚ました坊さん、忘れないうちにとすぐさま筆を執って、今のコイを書きます。すると、今までにない素晴らしい出来栄え。「まるで生きてるみたいだ!最高!」と自画自賛。いろんな人が「売って下さい」と言ってきましたが、「これだけはヤダ」と売りませんでした。

コイのおかげで復活!

さて、ある時、坊さんはいきなりぶっ倒れて死んでしまいました。弟子たちはさっそく棺桶に入れようとしましたが、不思議なことに心臓がまだぬくぬくしてるのです。

「もしかしたら生きてるかもしれんぞ!」

と、そのまま寝かしておいたら、いきなりむくっと起き上がって坊さんは生き返ったのです!しかもぺらぺらとしゃべることには、

「おい、檀家の平(たいら)の助を呼んでくれ。あいつは今、コイのお刺身で酒を飲んでるけど、珍しい話を聞かせるから来いと言え」

何でコイの刺身を食ってるなんて知ってるの?と謎に思いましたが、とにかく呼びに行くと、ホントに平の助は刺身を食って酒を飲んでるところ。平の助はすぐに坊さんのところへやって来ましたが、その平の助に坊さんは

「あんたは漁夫の文四(ぶんし)に、大きなコイを取ってこいと注文しましたね。そんで、文四が一メートルくらいのコイを駕に入れてきたでしょ。その時、あんたは弟さんと碁を打ってましたよね」

と、まるで見てきたかのように……。平の助が仰天してアワアワしてると、坊さん、実に不思議な告白。

「実は、わしはこないだ死んだんですけど、その時わしは魂だけになって琵琶湖に飛び込み、すっかり浮かれて気持ち良く泳いではしゃぎまくってたんです。

でも、もちろんコイの泳ぎにはかないません。それで『いいなあ、魚みたいに泳ぎたいなア』と独り言を言ってると、一匹のコイがわしに向かって『ああ、いつもたくさんのコイを助けてくれてる和尚さんですね。いいですよ、コイみたいに泳がせてあげましょう。これ着なさい』と、コイの着ぐるみをくれました。

それを着ると、わしはみるまに一匹の金色のコイになったんです。それですっかり浮かれまくって、あっちこっち気持ちよく泳ぎまくってました。ところがある日、漁夫の文四に釣られてしまいます。

『あっ。こいつは文四だ。顔なじみだから、わしだってことが分かれば離してくれるだろう』と思って、『お~い、わしだよ!離せよ!』と何度も言いましたが、全然聞こえないみたいです。文四はわしを抱えたまま、あんたの屋敷に行って、『こんなうまそうなコイが取れました』と見せるじゃありませんか。

あんたもすっかり喜んで、『よしよし、刺身にして食べよう!』と……。わしは慌てて『わしは人間!わかんないのか!食うなよ!』と暴れたのですが、どうしようもありません。まな板に押し付けられて、あわや刺身にされる!というところで目が覚めて、そのまま生き返ったんですよ」

この話を聞いて、驚かない人はいなかったそうですよ。

貧富論(ひんぷくろん)

これはおカネ大好き武士と、おカネの精が仲良くくっちゃべるという、なんともメルヘンなお話。でも、よくよく呼んでみると結構深いことも言ってたりして……。うちにもこんな妖精が現れると楽しいのですが。

おカネ大好き武士の左内(さない)

豊臣秀吉が天下統一を果たしたころ、陸奥(むつ)の国(今の青森だよ)に、左内という武士がいました。この頃の武士たちはおカネに執着することは「いじきたない」とされていて、おカネを一生懸命に溜める奴は「いやしい」と言われてました。

が、この左内はとにかくおカネが大好き!倹約に倹約を重ね、たくさん小判をためまくります。そして毎晩毎晩、座敷に小判を敷き詰めて、それをニタニタと眺めては悦に入っていたのでした。

そんな左内を周囲の人は「なんてケチな野郎だ」と呆れ果てていたのですが……。

ある日、左内の下男が倹約をして小判一枚を持っていたことが発覚。すると左内はそれをたいそう褒めちぎって、

「よいか、どんな名剣を持っていたって、一度に千人を相手にすることはできない。それに対して、おカネは常に天下の人々を従わせることができる。だからお金をおろそかにしちゃいけないのだ。おまえは下男でありながら、こんなにたくさんお金を集めたとは感心なことだ」

と言って、ご褒美に下男を武士に取り立ててやり、さらに十両もプレゼントしたのです。

これを知った人々は、みんな左内を褒めたたえて「左内が金を集めていたのは、欲が深いからではなくって、ちゃんと立派な考えがあったからなんだね」と言ったのです。

おカネの精と一晩中語り合う

さて、その晩のことです。左内がグーグー寝ていたところ、枕元に人の気配が……。

驚いて跳ね起きると、小人の老人がニコニコしながら座ってるのです!「わあ!」と驚いて慌ててると、老人は「まあまあ」と笑いながら

「いやいや、落ち着いてくださいよ。わたしはバケモノじゃなくっておカネの精です。いっつもあなたに大事にしてもらってるので、今日はおしゃべりしたいと思って出てきたんですよ(^^♪」

とのこと。左内もすっかり喜んで「じゃあ、今日は楽しくダベろうね!」とおしゃべりすることに。

さて、この小人のじじいはなかなかに深いことを言います。

「いいですか。お金持ちはケチで、その子供はバカが多いとよく言いますけど、これは全部のお金持ちに当てはまることじゃありませんよ。

そもそも、ある程度の財産がなくっちゃ、人間安心して生きていけないんですよ。百姓は頑張って畑を耕し、大工は家を建て、商人は品物をあちこちに売りさばいて、みんな一生懸命職業に努力することでおカネを貯めます。おカネがないから、悪の道に入ったりするんです。

おカネがあるからのたれ死にしないし、王様みたいな楽しみもあるんですよ。武士たちみたいに財産を卑しんだり、おカネをけがれたものだと思っているのはマチガイです」

このセリフに「その通り!」と共感しまくった左内。大喜びして質問攻め。

「それにしてもね。世の中の学者が言ってることも全くマチガイってわけじゃありませんよ。金持ちのくせに、人に借りたものも返さないドケチもいるし、主君に忠義を尽くす真面目で立派な人なのにビンボーってこともあります。仏教では前世の因縁っていいますけどね。どう思います?」

するとおカネの精、この意見をぶった切ります!

「ごもっとも、ごもっとも。でもね、仏教とおカネは全然関係ないですよ。仏様が言ってる幸せってのは、おカネとは全然関係ないですからね。いいことしてればお金持ちになれるなんて、子供だましの偽宗教ですよ。

いいですか。お金持ちっていうのは、上手に機会をつかんで努力をしたからお金持ちなんです。お金もうけは一種の術のようなものです。術が上手な人はおカネを集められるし、ヘタクソな人はいくらやっても駄目なんです」

「ふむふむ、なるほど……」

このお話は、ホントはもっと長いんですが……。長すぎるのでここでは省略。おカネの精は夜明けが来ると「じゃあね~」と消えてしまいました。左内はとにかく楽しかったので、とっても満足したそうです。

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著者プロフィール

坂口 螢火
坂口 螢火
歴史専門のライターを目指しています。

古典と神話が好きすぎて、ついに家が図書館のように……。

1月30日に、拙作「曽我兄弟より熱を込めて」が販売されます!立ち読みも大歓迎。ぜひ読んでね!

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Posted by 坂口 螢火