【曽我兄弟】曽我五郎の勘当が許されるエピソード3選!実はいろいろある……。
あんがい有名な「曽我兄弟の仇討ち」。主人公兄弟の弟、曽我五郎時宗(そがのごろうときむね)は親に黙って勝手に武士になったので、「もう二度と家の敷居をまたぐな!」と勘当……。
その三年後、苦心惨憺の末にやっと許してもらうのです、が!この「勘当が許される」場面、実は何パターンかあります。それというのも、原作の「曽我物語」が「真名本」「仮名本」「流布本」「講談」「歌舞伎」……と色々あるからでして。
今回は、「勘当許されるエピソード」の有名どころを三つ紹介します!
曽我物語は何パターンかある!
実は、曽我物語はたった一つの物語じゃありません。いくつか種類があるのです。大きく分けて
- 真名本(しんめいぼん)
- 仮名本(かなほん)
- 流布本(るふぼん)
の三種類があります。このほかに、「講談」「歌舞伎」などもあります。
ざっくりと違いを説明しますと、「真名本」は一番最初に作られた奴。坊さんが作ったのだそうで、やったら堅苦しくて難しいです。
「仮名本」は、「こんな難しーのよめないぜ」というわけで、もっと楽しく分かりやすく書いた奴。
「流布本」はもっと分かりやすく、二次創作ふんだんに取り入れて作った奴。
というわけです!だから、多分史実に一番近いのは「真名本」です。「仮名本」、「流布本」は作り話満載です。だから本によって、お話がだいぶ変わるのです。それぞれ味があって面白いですよ!
十郎頭良すぎ!真名本エピソード
真名本のエピソードは、ほぼ十郎の独壇場です!十郎ファンにはうれしい限りの見どころ……。
いざ、仇討ちに出発!でも、このまま死んだら五郎は母親に勘当されたまま死ぬことになるわけで、それはあまりに心残り。「兄者人、どうしても勘当を解いてもらいたいんです」と、五郎が十郎に涙の訴え。十郎は男前に
「よし、五郎。この兄が身に替えても勘当を解いていただく。すぐに行こう!」
五郎を連れて久々に曽我の家へ。五郎は中に入れないので外で待ち、十郎一人で母の部屋へ行きます。母の前に手をつくと即、
「母上、弟の勘当を解いてくださいませ」
もちろん、強情な母親は許しません!この母親、三年も我が子を許さないという、実にしつこい性格。
「五郎とは誰ですか、知りませんね。そなた以外に子供はおらぬ。箱王という不届き者がいましたが、勘当して追い出した後は五郎というのか六郎というのか知らぬ」
ひどい……。あまりに人でなしです……。こんな親だったらもう縁切ったままでいいんじゃない?って気もするのですが――そこは鎌倉時代の武士。親孝行ですからお許しが欲しいんです。
我慢強さでは日本一の十郎、どんなにひどいことを言われても顔色一つ変えません。姿勢を正して穏やかに母親を説得にかかります。
「その箱王のことでござります、母上。実は、それは箱王の罪ではありません。まったくわたくしの仕業でござります。五郎が僧侶になると聞き、わたくしが反対したのです。的矢のごとくであった我々兄弟、弟が僧侶となり、わたくし一人になってしまうことは、とても耐えられないことでございました。道理を曲げても元服し、自分の側にいてほしいと頼み込み、五郎を元服させたのです。
また、箱王の過ちとは、出家をしないということだけでござりましょう。それはさほどの罪でござりますか。それぞれの考え次第なのですから仕方のないことです。五郎は出家をしなくても孝行を尽くしております。
僧の中にも悪僧はいくらでもおり、俗人の中にも仏道心のあつい者は多くいるのです。五郎のように親の供養に熱心なものは少のうございます。女性との交わりを一切断ち、法華経を読む声にはあらゆる罪も消えることでしょう。
我ら武士はいつ何時、命を落とすか知れぬのが常でござります。万一のことがあったとき、ただ一人の親の許しを得ぬまま死ぬ事は五郎のためにも罪、また、大した過ちもないものを許さなかった母上のためにも、罪業となることでしょう。
このことを草葉の陰で、父上がお恨みにならぬことがありましょうか。どうぞ、許すというお言葉を頂戴したいのです」
何という名演説!この、あまりにも理路整然とした十郎の説得で、ついに母親も我を折って「されば許しましょう」と言ったのでした。
五郎大泣き。仮名本エピソード
仮名本の方では、五郎が「このまま許しを得ないまま死ぬのは心残り。死んでから後悔しても遅い。勇気を出して謝りに行こう!」と一大決心。おそるおそる曽我の家に行ったのでした。まるで小学生が謝りに行くみたいですが、死ぬ前ですから突っ込み禁止のこと。
でも、母の部屋にはとても入れません。障子の外から「母上……時宗(ときむね)が参りました」と声を掛けます。
「そこにいるのは誰ですか。そのような子は持たぬ。以前箱王という不届き者がいたが、勘当してからは行方知れず。さだめし、武蔵、相模の若殿ばらがからかいに来たのだろう。さっさと出ていきや!」
「その箱王が参りました……」
「誰の許しを得てきましたか!女親と思って侮っているのですか!七代先まで許さぬぞ。会うことなど思いもよらぬこと」
この後、ホントは二人でいろいろ言い合うのですが、長すぎるのでカットします。
とにかく全然許さない上、七代先まで許さんと息巻く母親。五郎は手も足も出ません。とうとう丸くなって大泣き。「どうしてわたくしがそんなに憎いのですか」と、カメみたいになってしまいます。
この時、十郎は自分の家で五郎を待っていたのですが、ちっとも帰ってこないので心配になります。不吉な予感に駆られて駆けつけると、案の定、五郎は縁側で号泣……。これには物静かな十郎もカッとなります。
「母上、わたくしには兄弟あまたおりますが、真の弟と思うのは五郎唯一人でございます。わたくしに免じて、五郎をお許しください」
でも母親は馬耳東風です。「思いもよらぬことですね」とちっとも聞いてくれません。十郎、必死に頼みます。
「いったんお心にはそむきましたが、僧侶にならずとも、五郎は孝行を尽くしております。父上のために念仏を唱えて供養しております。わたくしも弟も貧しい身。目をかけてくれる親戚もなく、母上の他に誰が目をかけてくれましょうか」
言葉を尽くして説得するのですが、この母親、マジで耳を貸してくれません。何を言っても無駄です。ついに、十郎はサッと立ち上がって
「これほど申し上げてもお許しが得られないとは、生きていても仕方がなかろう。ただ今、その細首を打ち落としてくれる。ご覧なされ!」
イキナリ太刀を抜いて五郎を叩き斬ろうとしました!これにはさすがの母親も仰天!
「十郎、お待ち!斬ってはならぬぞ」
「なぜです。あってもなくても益のないものでありましょう」
「許す!許します。とどまりたまえ」
許すという言葉を得て、十郎はパッと太刀を収めて、元の優しい顔。実は全部演技だったのです。五郎のところへ行って「お許しを得たぞ。さあ、中に入れ」と、二人抱き合って喜びあうのでした。
十郎大活躍!講談エピソード
これは大体仮名本と同じなのですが、細かいところが違っています。
兄弟は仇討ちの前に「勘当を解いてもらう」+「死に装束の晴れ着をもらう」つもりです。
まず、十郎が母親のところへ晴れ着の小袖をもらいに行きます。
「母上、実は鎌倉殿(頼朝)には、このたび富士の裾野で巻き狩りを催されるとのこと。わたくしも末代までの語り草に拝見を思い立ちました。ぶしつけなお願いながら、晴れ着にいたす小袖を頂戴いたしたく……」
お母さん、普段から可愛がってる十郎ですから快く小袖をくれます。十郎は取りあえず隣の部屋でそれに着替えながら、「さて、着替え終わったら次は勘当の許しを得なくては……」と次の作戦を考えてます。
が、十郎がまだ一言も勘当のお詫びを言わないうちから、五郎が縁側に飛び出していってしまいました。
「母上!五郎時宗でござります。どうかそれがしにも、小袖を賜りませ」
……五郎は「我慢する」ということができません。兄が小袖をもらったのを見て、待ちきれなくなってしまったのでした。しかし!母親は許しません。
「五郎時宗とはどこの国の誰のことか。このわたくしを母と呼ぶのは十郎祐成、京の小次郎、二宮太郎の妻、それに禅師坊(曽我兄弟は他にも兄弟が何人かいるんです)。その他に箱王というものがありましたが、拭こうものゆえ勘当して行方知れず」
「ああ、母上。その箱王でござります……」
「その箱王が誰の許しを得てきましたか!女親と侮るとは、言いようもない不孝者。この上は七生まで勘当いたす!」
「そのような……。ああ、何とてそれほどまで五郎をお憎しみ遊ばします……。あ、あまりと言えばお情けのう存じます……」
この時、十郎は隣の部屋で着替え終わったところ。イキナリ隣の部屋から怒鳴り声が響いてきたので、「さては」と慌てて飛び出します。すると、お母さんはカンカン、五郎は縁側に突っ伏して大号泣……。
十郎は物静かな性格で冷静沈着。普段物事に動じたりはしないのですが……この時ばかりは、あまりの酷さにドン引き。
「母上!この十郎には兄弟が多くおりますが、誠の弟と思うのは五郎唯一人。わたくしに免じて、五郎をお許しください!」
必死に願いますが、お母さんは聞き入れません。「絶対許さない」とガミガミ……。これには十郎もついにブチ切れ。
「エエ!これほど言ってもお聞きとげ下さらぬとは。あってもなくても同じでございましょう。ただ今、わたくしがその首を打ち落としてくれる。ご覧なされ!」
……この後の展開は、上と同じです。
<h2>まとめ</h2>
以上、曽我物語の中でもかなり重要場面、「五郎の勘当返上」を三種類ご紹介しました!どれもこれも、それぞれに味がありますね……。
それにしても、どのエピソードにも共通するのは「お母さん、いくらなんでも酷すぎ!」ってことですね。五郎を六年間寺にぶち込んだあげく、勘当してさらに三年間会わなかったって、人としてどうなんでしょうか……。
ようやく勘当を許してもらったのに、この三日後に死んでしまった五郎。可哀想すぎです。
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