【忠臣蔵】武林唯七ってどんな人?忠臣蔵一のうっかり者

2021年10月8日

忠臣蔵の人気キャラクターと言えばまずは大石内蔵助、堀部安兵衛(ほりべやすべえ)、大高源吾(おおたかげんご)、赤垣源蔵(あかがきげんぞう)、それから、我らが武林唯七(たけばやしただしち)です!江戸時代からこの人気は不動。誰が何といおうとこの五人は大人気です!

何でこんな抜群の人気があるかと言えば、「仇の吉良を見つけてバッサリ斬ったのが唯七だった」という大手柄を立てたのはもちろんですが、何より、唯七の性格が実に愛嬌があるからで……。このページでは、忠臣蔵一の愛されキャラの唯七について解説いたします。

どこよりも簡潔に!武林唯七の性格は?

お人好しで涙もろい。名代のうっかり者。すぐに慌ててミスをする。純粋無垢で隠し事ができない。案外短気でせっかち。樽からひしゃくで飲むほど大酒飲み。堀部安兵衛といつもつるんでる。

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武林唯七の人生

武林唯七は、映画やドラマでは「おバカキャラ」で有名人。まあ確かに、ホントに粗忽ものだったみたいですが、もちろんそれだけの人生じゃありません!

唯七、実は孟子の子孫!

孟子とゆー中国の大偉人をご存知でしょうか?世界史の教科書には必ず出てきますが、中国の思想家(孔子とか老子とかと同じ)で超エライ人。

何を隠そう!唯七は、この孟子大先生の子孫です!豊臣秀吉が朝鮮出兵した時に、日本に渡ってきた中国人が、唯七のおじいさんに当たるのだそうです。……もっとも、「七代越えたらもう赤の他人」と申しますから、唯七に孟子の血なんて一滴も混ざってないかもしれませんが。

唯七、なんと内匠頭の乳兄弟

唯七はたった十五両三人扶持の平侍です。現在の価格にすると、だいたい年収150万円くらい?かなりビンボーです。

しかし、唯七はビンボーなくせに、殿様の内匠頭の特別なお気に入りでした。なんでかと言いますと、唯七のお母さんが内匠頭の乳母だったからです。つまり、唯七と内匠頭は乳兄弟に当たるのでした。当時は「乳兄弟は実の兄弟と違って、相続バトルもからまないし、一番信用できる兄弟だ」と思われてたくらいですから、唯七は内匠頭にとってとても心やすい存在だったのでした。

唯七、四十七士のメンバーになる

元禄十四年三月十四日!唯七の人生は一変します。殿中松の廊下で内匠頭が吉良上野介に刃傷。

内匠頭にとって特別なお気に入りだった唯七、迷うことなく殿様の仇討ちを決心し、すぐさま赤穂へ走り、大石内蔵助たちと共に血判を押すのでした。

この時、唯七はお兄さんの渡辺半右衛門(はんえもん)と一緒に仇討ちメンバーとなったそうです。(唯七は二人兄弟。お兄さんが渡辺家を継ぎ、唯七は分家となって武林を名乗っています)

大石内蔵助が遊び放題。唯七ブチ切れ

さて、殿様の仇討ちを誓った赤穂浪士たち。それぞれ城を出て、京都、大阪、江戸などに散らばって仇討ちの機会を狙っています。

この時、家老の大石内蔵助は吉良にマークされてしまっていたので、「仇討ちの意思はないと吉良をごまかさなくちゃ」と、わざとタワけたふりをして、女や酒に興じて遊びまくっていました。

吉良を騙すための行動だったのですが……味方の唯七まで騙されてしまいます。「ふざけやがって!仇討ちの覚悟を捨てたのか!」と、唯七はブチ切れまくって、不破数右衛門(ふわかずえもん)と一緒に京都まで行って大抗議。これを見た大高源吾(内蔵助の右腕的存在)が慌てて

「まあ、待て、唯七。ご家老には考えがあるのだ」

となだめますが、唯七は単純すぎてそんな理屈分かりませんから

「ええい、うるさい!これが騒がずにいられるかー!」

と、ワアワア泣き叫んで怒鳴りまくってたそうです。

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まさかの不運……兄と今生の別れ

いよいよ、大石内蔵助の号令!

「方々!吉良を討つ日は近い。全員江戸へ集結せよ!」

唯七も江戸へ向かうために、兄と二人で準備をしようとします……が、ここで思わぬ不幸が。

年老いた両親が二人とも病気になってしまったのです。それも、枕も上がらぬ重体。「病気の両親を、このまま見捨てるわけにはいかない……。しかし、主君の仇討ちはどうなるのか。それも、主君とはもったいなくも乳兄弟に当たるのに……」兄弟二人は苦悩します。

やがて、意を決した兄の半右衛門が唯七に言います。

「よいか、無念だが、わしは両親のためにここに残る。お前は同志たちと共に、見事に仇を討ってくれ。我ら兄弟は、お前は義を、わたしは孝を尽くそう」

というわけで、哀れな兄弟は永遠に別れることになったのでした。

いよいよ討ち入り!唯七、吉良に斬りつける

運命の元禄十五年十二月十四日!唯七は吉良邸の表門から討ち入ります!

「やあやあ、我こそは浅野の浪士、武林唯七なり!」

どんどん館の奥へと突き進み、見事に吉良の用心棒、和久半太夫(わくはんだゆう)をバッサリ!途中、罪のない子供を誤って斬ってしまうという失敗もするのですが、めげずに走り回る唯七。奥へ奥へと突き進み、たどり着いたのは小さな炭小屋。

……耳をすませば、中から何やら人の声がします。「もしや!」と急いで中へ飛び込んで太刀で突き刺せば、確かな手ごたえ。引きずり出したのが、仇の吉良上野介だったのです!(この時、間十次郎と一緒に飛び込んで、間十次郎が一番槍、唯七は二番太刀を浴びせました

こうして、唯七は吉良発見と、二番太刀の大手柄を立てたのでした。

唯七切腹

首尾よく本懐を遂げ、四十七士は上野介の首を泉岳寺の主君の墓に備えます。唯七はこの時、二番太刀の手柄によって、大石内蔵助、間十次郎の次の三番目に線香をする名誉に預かりました。

しかし、幕府は赤穂浪士たちを許してはおきません。彼らは四つの大名屋敷にそれぞれ分けて預けられます。唯七は毛利家にお預けとなり、翌年二月四日に切腹となりました。

武林唯七、粗忽ものエピソード

唯七にはうっかり者武勇伝がたくさんあります。ここではその代表的なものをいくつか。

唯七、カミソリで殿様をひっぱたく

唯七はカミソリが大変上手だったそうです。よく、内匠頭の月代(武士の頭のツルツルのところ)をショリショリと剃っていました。

この日もまたショリショリやってたのですが……そこは名代のうっかり者。頭を湿らせるのを忘れました。当たり前ですが、濡らさずに毛を剃ったら大変痛いです。

「これこれ、唯七。なぜ湿さぬ」

慌てた内匠頭、すぐさま注意。「あ、これはこれは……」唯七、すぐさまベチャベチャと濡らして、またショリショリ。

ところが今度は、カミソリの柄が緩んできました!「あ、これはいかん」とすぐさま直そうとしますが……うまくいきません。せっかちな唯七、だんだんイライラしてきました。そこでついにキレた唯七、

「エイッ」

と、こともあろうに殿様の頭にピシッと剃刀を当ててすげてしまったのです!

「こら、唯七!」

内匠頭、もちろん怒りました。普通なら直ちに処罰。でも、唯七がカワイイから許したそうです。

唯七、せっかん飯を食わされる

ある日、内匠頭が唯七を呼びまして

「唯七よ、本家へ使いに行ってもらいたい」

「はい、たまわりました。ただ今すぐに」

「あ、こら待て唯七!」

なんと唯七、本家へなぜ行くのか、その御用を全然聞かないうちに、馬に乗って駆け出していってしまいました。内匠頭が呼んでも、すでに聞こえません。

さて、浅野本家へ向かった唯七。ここら辺には似たよーな大名屋敷がずらり並んでます。唯七、うっかりして全然関係ない隣の屋敷へずかずかと入って行ってしまいました。

「ハッ、しまった。ここは別の屋敷だ……」と気づいたときはもう遅いです。この屋敷の家臣たちが、見かけない唯七を怪訝(けげん)な顔で見つめつつ

「そなた、どこの藩の者だ?何用あって来られた?」

今更、間違いですなんて言えません。斬られちゃうかも……。弱り果てた唯七、ガマの油状態になりつつ、何とか言い逃れなくちゃと頭をフル回転して

「え~、まことにすみませんが、腹が減ったので昼飯を下さい」

と、何かわけのわからないトンチンカンなお返事。これを聞いた家臣たち、

「何てふざけた男だ。よし!たっぷり後悔させてやろう」

と、富士山みたいな山盛り飯を持ってきて「さあ、食え!残すなよ」と、吐くほど飯攻めにしたのでした。唯七、フラフラになりつつ何とか食べ切って、

「よしッ、今度は間違えない!」

堅く決意しつつ、本家の門を通ったのですが……。「あれ?そういえば、俺は何のために本家に来たんだっけ……?」御用を聞いてなかったので、お務めを果たせません。仕方がないので、庭に咲いてたカキツバタだけをもらって帰ります。

ところが、唯七のうっかりはこれだけにとどまりません。せっかく貰ったきれいなカキツバタなのに、これを鞭代わりにして馬の尻をぴしぴし叩いてしまったので、花は全部散ってしまいました。

帰ってきた唯七、「カキツバタをもらってきました~」と、内匠頭に渡そうとしますが、「ありゃ!茎しかない!なんでこんなことに?」とアワアワしてたそうです。

唯七、辞世の句

エピソードを読むと、ただのバカみたいな唯七なのですが……辞世の句はなかなか真面目でカッコいいです!

「仕合せや 死出の山路は 花ざかり」

あと、唯七は四十七士の中で、唯一漢詩を残していることでも有名です。さすがご先祖は中国人ですね。ちゃんと文才もあったんです!

「三十年来夢の中、
身を捨て、義を取れば、夢は尚同じく、
両親病に臥せ故郷にあり、
義を取り、恩を捨てれば夢は共に空なり」

これはですね、平たく言えば、「病気で伏せっている両親を見捨てて、主君の仇討ちという義に進んだら親不孝者になってしまうところだったけど、兄が両親を引き受けてくれたから安心して死ねるよ」とゆー意味です。

唯七切腹エピソード

唯七は切腹するときのエピソードも半端じゃありません。切腹するときは、皆さんよくご存じのように、後ろにいる「介錯(かいしゃく)人」という人が、「エイッ」と刀を振るって、首をスパッと落とすことになってるのですが……これって実はかなり難しいです。人間の首がそうそう簡単に切り落とせるわけないですよね。

それで、哀れ唯七君は、何と失敗されてしまいました!「エイッ」と思いっきり太刀を振った介錯人でしたが、

「アアッ、しまったッ」

あろうことか、首半分のところで斬り損ねてしまったのです!「ううッ」と、唯七バッタリ倒れます。見てる人たちは真っ青。声も出ません。

ところが、驚くなかれ。唯七はちゃんと起き上がって座り直し、「今度は失敗するなよ」と、斬り直しをさせたそうです。(ホントかな?)

唯七のお兄さんその後

病気の両親の面倒を見るために、赤穂に残ったお兄さん、渡辺半右衛門。この人はその後どうしたかと言いますと……お兄さんは唯七を可愛がっていたので、弟のために渡辺の姓を捨て、武林に改名しました。

その後お兄さんは浅野の本家、藝州浅野藩に仕官。今も広島には武林家が残っているのです。

まとめ

やれやれ、長々と失礼しました。

武林唯七は忠臣蔵の人気者。忠臣蔵って最初から最後まで血と汗と涙の超シリアスな話なんですけど、何となく、唯七がいるとなごむんですよね。いわゆるムードメーカーです。ぜひお友達になりたいキャラです。

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著者プロフィール

坂口 螢火
坂口 螢火
歴史専門のライターを目指しています。

古典と神話が好きすぎて、ついに家が図書館のように……。

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Posted by 坂口 螢火