聊斎志異(りょうさいしい)、面白い話3選!

2021年10月1日

聊斎志異には、何と五百も小話があります。結構どれもこれも面白いのですが、ハッキリ言って全部読むのは至難のワザです……。

そこで、五百の中からわたくし螢火が「面白い!」と思った作品を、ここで三つご紹介します!聊斎志異の雰囲気を感じていただけたら幸いです。

首のすげ替え

これは首だけじゃなくて、他にも取り替える話。まあ、読んでね。

朱、木像と飲む

ある所に、朱(しゅ)という若者がいました。彼は大変気のよい、豪快な人物なのですが、惜しむらくはバカ。いっつも役人になるための試験に落第していました。

と、ある日彼はほろ酔いで酔っぱらい、閻魔(えんま)大王の家来の木像に向かって

「やあやあ、ごきげんよう。よかったらうちに来て飲まない?」

と、飲みのお誘い。すると翌日、何とその木像が

「よう!飲みに来たぜ!君、いい奴だな!」

と、やって来たのです!木像は「オレ、陸(りく)っていうんだ。仲良くしよーぜ」と自己紹介。朱は驚くどころか喜んで

「いいよ。さあ、飲もうぜ!」

と、どんちゃん騒ぎ。すっかり仲良しになって、そのままグーグー寝ちゃったのでした。

陸、朱の心をすげ替える

さて、目が覚めると……何と!陸が朱の腹をぱっくり開けて、中から腸とか胃袋を取り出してるじゃありませんか!

「ヒャー!何すんだ!」

と尋ねると、

「うん、君がバカなのは、君の心がキレイじゃないからさ。今、キレイな心と取りかえてあげるからね」

と、新しい心を入れて、腸や胃袋を元に戻すと、チクチク縫って手術は終わったのでした。さすがは閻魔様の家来、痛くないし、血の一滴も出てません。

さらに驚くべきことに、この後、朱のバカはすっかり治って、大出世してお金持ちになったのです。

朱、奥さんの首を取りかえてもらう

お金持ちになった朱、その後もずっと仲良しの陸に、ある日こんな相談をします。

「うちの奥さんは、下半身はとってもいいんですがね、どうも顔がまずいんだな。取りかえることってできる?」

「簡単さ。じゃあ、やってあげよう」

陸はさっそく奥さんの寝室へ。スヤスヤ寝てる奥さんの首をスパッと切ると、美人の首をピタッとつけ、真っ直ぐになってるか確認すると、こないだみたいにチクチク縫って終わらせました。

起きた奥さん、自分の顔を鏡で見てビックリ。

「まあ!わたしの顔じゃないわ!」

でもスーパー美人になったから文句は言いません。

その後も、朱と陸は仲良しを続け、死んだ後も幽霊になって飲み会をして、幸せに過ごしましたとさ。

水莽草(すいぼうそう)

これは幽霊の話だよ。でも全然怖くないから安心してね。

いきなり殺された祝(しゅく)

祝という若者がいました。年取った母親と、一歳の息子と三人暮らし。奥さんは早死にしちゃっていません。

さて、この祝がぶらぶら散歩していた時、のどが渇いたので茶店に行きました。出てきたのは干からびたバーさんで、持ってきたお茶も、ヤな匂いがする代物。ぜんぜん飲む気がしません。

「こんなもん飲めるか」

と文句を言って店を出ようとすると、店の奥から大変な美女が……。シナシナと近づいてきて、お茶を勧めるじゃありませんか。すっかりメロメロになった祝は、勧められるままにお茶を飲み干し、さらにおかわりまでしちゃったのでした。

ところが!実は、このバーさんと美女、幽霊だったのです!この土地の言い伝えで、「水莽草という毒草を食った人は、水莽鬼という幽霊になってしまう。同じく水莽草を食って死んだ人がいないと、あの世に行けない」と言われているのです。だからこの女とバーさんは、祝をハメて水莽草のお茶を飲ませ、めでたくあの世に行こうとしていたのでした!

簡単にハメられた祝、家につくなりぶっ倒れ、そのまま死んじゃいました。美人って怖いですね。

死んだのに帰ってきた祝

祝のお母さんは当然大泣き。わずか一歳の孫と、年取った自分だけ。どうすればいいか分かりません。

が、そんなある日。いきなりドアを開けて

「お母さん。ただいまー」と、祝が帰ってきたのです!しかも後ろに美人の女を連れていて、「お母さん、心配だから帰ってきたよ。この女は僕の新しい奥さん。水莽草で僕を殺した美人なんだけど、『殺した責任を取って結婚しろ』って説得して連れてきたんだ」

……とのこと。お母さん、正直ドン引き。でも、年寄りだけで暮らせるはずもないので、幽霊息子と幽霊奥さんと一緒に暮らすことに……。

しかもそのうち、幽霊奥さんの元の両親がやって来て、

「まあ!この子はうちの早死にした娘です!こんなところで幽霊になって、しかも結婚していたなんて!」

と号泣。祝の家がビンボーなのを見かねて、「娘が幽霊になってまで苦労するのは見てらんないわ」と、たんまりお金や肉をくれて、しかも大きな家まで建ててくれたのです。

こうして、幽霊一家はとっても幸せな(?)第二の人生を送ることになったのでした。

死後出世した祝

そうこうしてるうちに、祝のお母さんは死亡。その後も祝と奥さんは家を守って、息子が年頃になったらいい嫁さんをもらってやりました。

そんなある日、天帝(天上界の皇帝)から、「お前は見どころがあるから、天上界の役人にしてやるよ」とスカウト。祝は奥さんと一緒に天上界に行きましたとさ。

酒飲み仲間

これは単なるお友達の話じゃありませんよ。「こんな友達がいたらいいなあ」と思わずにいられません。

呑み助の車(しゃ)

車というビンボーな男がいました。ビンボーなくせに大酒飲み。夜は徳利の行列を作らなくちゃ眠れない、という厄介な奴でした。

ある日、大酒飲んで寝台に横になると、なんだか隣に温かいものが……。誰かとなりで眠っている様子です。「はて……」と触ってみると、毛がフサフサ。猫にしちゃ大きい。灯で見ると、狐がグーグー寝ているのでした。しかも、テーブルの徳利は全部カラ。ぐでんぐでんに酔っぱらってるのです。

車はスッカリうれしくなって、「こいつはわたしの飲み友達だ」と、起こさずに布団をかけて、一緒に寝ました。

すると深夜――。狐が儒学者に化けて

「殺さずにいてくれてありがとうございました」

と平身低頭。車はニコニコして

「いいのさ。よかったらいつでもおいで。酒をご馳走してあげるよ。いい飲み友達になろうじゃないか」

こうして、車と狐は毎晩仲良く飲みかわす仲になったのです。

狐の恩返し

いい友達になった狐ですが、ある晩車に向かって

「いつもお酒をご馳走になってますが、あなた貧乏でしょう。酒代だって馬鹿にならないんじゃありませんか」

「別にどうってことないさ。気にするなよ」

「そんなわけにいきませんよ。一つ、わたしが酒代を工面してあげましょう。明日の朝、ここから東南七里の道端に二両落ちてるから拾いに行きなさい」

果たして、探しに行くとお金が落ちてます。また、さらに次の日。

「中庭の裏に穴倉があります。中にお宝がありますよ」

探しに行くと、何と一万両が……。そしてまたある日、

「市場でソバの種をたくさん買いなさい」

すると、しばらくして干ばつになり、米や豆はみんな枯れてしまい、ソバしか植えられなくなりました。ソバの種をたくさん持っている車は大金持ちになったのです。

こんな感じで、車は狐のおかげで何もかもうまくいきました。家族も狐を大事にして、みんなで幸せに……。でも、車が年取って死んでしまうと、それっきり狐は姿を消してしまったそうです。酒がつなぐ縁って素晴らしいですね。

聊斎志異読むなら

この作品読むのにおススメの本、三冊紹介します!

マンガの聊斎志異(をもとにした作品)


「諸怪志異」

全三巻です。タイトルからして聊斎志異っぽいでしょ。聊斎志異をもとにして、いろいろ化け物が出てくる短編を集めた奴です。だから聊斎志異そのままってわけじゃないのですが……雰囲気がものすごくいいです。中国の古典をここまで再現した漫画は、多分他にないでしょう。

変態レベル聊斎志異


「聊斎志異」

完訳です。上下巻あります。

聊斎志異はいろんな訳が出てますが、これが一番いいかな?わたしは中学の時にこれにホレて読みました。ですが!ぶっちゃけて言うと、豪華本なので持ち運びは不便ですよ。変態さんはこれを買いましょう。本棚にこれがあると「おお!読書家!」って感じでカッコいいです。

文庫が好きな方はコレをどうぞ↓

なんだかんだ言って、岩波はハズレがないですよ。

まとめ

わたしが贔屓にしている三つのお話を紹介しました。三つの内、二つが飲みまくっている話で申し訳ない……。

でも、これはわたしのせいじゃなく、酒の話が多すぎるせいです!聊斎志異にしろ、三国志にしろ、水滸伝にしろ、中国人は飲みすぎです!決して、わたしが酒好きだから、こんなのばっかり選んでるんじゃありませんよ!

さて、言い訳はこれくらいにして……聊斎志異はこの、三つの話のように、意外とハッピーエンドが多いです。どうやら、不思議なことが起こっても、驚かずにニコニコ受け止める人は、幸せになれるということらしいですね。

著者プロフィール

坂口 螢火
坂口 螢火
歴史専門のライターを目指しています。

古典と神話が好きすぎて、ついに家が図書館のように……。

1月30日に、拙作「曽我兄弟より熱を込めて」が販売されます!立ち読みも大歓迎。ぜひ読んでね!

出版した本(キンドル版)

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Posted by 坂口 螢火