新人賞を取らずに「忠臣蔵より熱を込めて」を出版するまで

2021年10月19日

こんにちは!坂口螢火です。今回は古典の内容じゃなくて、「忠臣蔵の本を出版するまで」と「出版したらこんなことがあった」ことについて少々語ります。まあ、日記みたいなものだと思ってお読みください。

こんな本です↓

賞がないと困るよ……

わたしはここ七年ほど、ず~っと歴史の本を書いていたんですが(キンドルで出してる本を読んでくださった方、ありがとうございます!)、それがまあ、ぜんぜん新人賞に当たりませんでした。

そもそも、歴史ものを扱っている賞というもの自体、メチャクチャ少なくて……。「時代小説」だったら、そこそこあるんですがね。わたしの作品はエッセイなので、扱ってくれる賞がほとんどなかったわけです。年に一、二回応募して、そのたび「残念でした」の繰り返し……。

そんなある日、ある大手出版社からお手紙が。

「自費出版でしたら、出版できるレベルがあります。よろしければご連絡ください」

ハッキリ言って、これを読んだ最初の感想は

「ついに来た。自費出版の売り込み!」

出版って大きく分けて「商業出版」「自費出版」があります。商業出版は作家がプロとして認められてて、出版にかかる費用は全部出版社が持つもの。自費出版は、読んで字のごとく、全額著者負担です。だいたい三百万はかかるんだとか……。

商業出版と自費出版の違いとは

自費出版は、今では大きなビジネスになってますね。あの「それからの三国志」なんかは、自費出版で出したら大ベストセラーになった作品。当たれば大きい!でも当たらなかったら物凄くマイナス……。

とっても誘惑の大きい話なんですが、でもわたしは最初から「自費出版はしない」と決めてました。「そんなお金ない」のもありますけど、何より「プロとして認められたい!」と思ってたからです。

自費出版は「自分で書きたい内容を自由に書く」世界で、商売として出してる作品じゃありません。わたしは「作家になって何作も出したい」という夢があったので、商業出版にこだわりたかったわけです。だから、出版社から来た手紙をサッサと捨てようと思ってたのですが、ここで家族が

「話聞くだけでも聞いてみたら?出版業界の話を聞けるかもしれないじゃん」

と忠告。なるほど、と思って、電話してアポ取りました。

実は親切だった編集者さん

さて、やって来ました、出版社!初めて見ましたが、ドーンと怪獣みたいに巨大なビル!一応東京に住んでるけど、下町育ちなもんで「ワアッ」とビビって及び腰……。

玄関でうろうろしていると、「やあやあ、初めまして」とサワヤカにやってきた編集者さん。わたしは出版社と言うと、何となくアナログな印象を持っていたのですが、勝手に想像していたのと全然イメージが違う!まるでどっかの商社の、エリートサラリーマンみたいにスタイリッシュな人でした。

それから会議室みたいなところでいろいろお話。もちろん最初に話した内容は、自費出版の仕組みについてです。ですがその後、

「坂口さんは、この作品をこれまでいろいろな出版社に出しましたか?」

「いえ、全然……。ここだけです」

「ええっ。そりゃもったいないですよ。ここでは残念ながら賞に入りませんでしたが、賞を取れるか取れないかは運です。どんどん、他の出版社に出してみたらどうですか。持ち込みを受け付けているところは、たくさんありますよ!

まさに目から鱗のお話でした。

これまでわたしは、一つの作品が賞に落ちたら、また別の作品を書いて次の賞に――それが落ちたらまた別のを書いて次の賞に……を繰り返していたのです。一つの作品にこだわって、「どうしても出版させたい!」と努力することを全然してなかったのです。つまり作品を可愛がってなかったのですね。

この編集者さんは本当に親切な方で、その後も電話をかけて下さって「どうしてますか~」と聞いてくださいました。本当にありがとうございます……。

あちこち持ち込みをかけてみる

この時に手掛けていたのは「三国志より熱を込めて」という作品でした。取りあえずはこの作品のために東奔西走。原稿と企画書を封筒に入れ、だいたい40社くらい持ち込んでみました。が、これは全滅。

その後、「持ち込み」&「新しい作品を書いて新人賞に出す」を繰り返すこと2年くらい。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるで、こうしている間に、だんだん最終選考に残るようになってきました。……それにしても、持ち込みという作業はキツイです。送る側は

「返事来るかな~。今頃読んでくれてるかな~」

と気が気じゃないのですが、ウワサによると、持ち込みした原稿って、チラッと見ただけで破棄されてるそうですね。日々膨大な原稿が編集者の元に来るので。

なので、「受け取りました」のお返事すら来ないところが99%!メールで送った場合でも、自動返信メールすら来ないところもあります。取りあえず返事が来るだけ、新人賞落選の方が気が楽ですね。

さて、去年の暮(2020年)、取りあえず、新人賞の最終選考まで行った「忠臣蔵より熱を込めて」の原稿を、手あたり次第にあちこち郵送(メールと合わせて50件くらい?)。

(忠臣蔵知りたい人はここを見てね)↓
忠臣蔵の日本一分かりやすいあらすじまとめ

例によって最初は全然当たらなかったんですが……一件、返信が……。

「検討してみます」

光明を見出すとは、まさにこのようなことでしょう!二週間ほど待つと

「当社では出版できませんが、子会社に回してみます」

それから、またしばらくすると、その子会社から

「出版しましょう」

とメールが!……こんなに舞い上がったことは、人生で初めてだったかもしれません。

持ち込みだと編集がない⁈

さて、出版が決まったから、ただちにうまくいくかと言うと……それがいばらの道だったのでした。よく、「出版が決まって、発売されるまで、大変だったけど楽しかったです!」なんて情報をよく読みますが、あれは「新人賞を取ったから」です!持ち込みだと慌てることばっかりです。

なぜかと言うと、新人賞をとった作品は「すぐに担当がついて」「色々アドバイスを受けて、作品を練り直して、一緒に良い作品にしていく」という過程があるのですが、持ち込みだとそれがないんです。

持ち込みだと、全部自分でしなくちゃなりません(後から知った)。出版社側は「完成された作品を渡されて、紙出版にするだけ」が仕事で、「編集」はみ~んな著者がやらなくっちゃならないんです。誤字脱字チェックも、作品の練り直しも自分の仕事。特にわたしの場合、「忠臣蔵」という歴史ものだったんでチェックがヤバかったです。

もちろん、賞に出すまでに何度も推敲して、頑張って作った作品ですが……それでも完璧なわけがありません。例えばですが

「この時代にこんなしゃべり方をしていたわけがない」

とか

「この植物はこの時代には日本に伝わっていなかった」

など、えらく細かいところまで、間違いがあっちゃいけません。作品にもよりますが、この「編集」の作業で100以上は訂正が入るのが普通だそうです。

これを一人でやることになったので、文字通り毎日てんてこ舞い。図書館に通い詰めして調べるのですが、それでも自信がない。だって、自分一人の判断じゃアヤシイじゃないですか。途中2度ほど出版社の人に

「この個所について、相談に乗っていただけますか」

とメールしましたが、アッサリ一刀両断。

「厳しい言い方をしますが、それも作家の力量ですよ」

と……。正直、行き詰った感がありました。

専門家にヘルプする

そこで!思わぬツテをゲットします。本に載せる古地図の著作権を調べてる最中に、偶然「中央義士会」(忠臣蔵の研究をしてる会)の会長さんと電話をする機会が……。

この会長さんが大変イイ人で、

「本を出すの?じゃあ、原稿のチェックをしてあげようか?」

とあり得ないほどの親切。「じゃあ、お願いします!」と渡りに船で、原稿を送ったのでした。

すると、自分じゃ気付かなかった細かい点まで大量の赤印。(しかも、マッハで返送してくれました)忠臣蔵の勉強会まで招待してくれて、さらに作品を深めることができたのでした……!

この会長さんのお話によると、

「編集者だって相談されても困るんだよ。だって編集者は歴史学者じゃないんだから。聞かれても分かんないんだよ」

だそうです。なるほど……言われてみりゃ、その通りですね。

歴史本の執筆をされている方々、こういう専門家のヘルプは本当に貴重です!ぜひ、こういう方々にツテを求めましょう。

(それでも、完成した本を見たら数か所誤植があったんですが……)

値段がえらく高くなる

さて、わたしの本は、自分では「文庫で安くしたいなあ」と考えていたのですが、そうはいきませんでした。

初版500部。こう少ないと、印刷する時の都合で値段が高くなるのだそうです。細かい仕組みは良く分からんのですが、数百部だけ刷るのより、一気に数千部刷った方が、一冊にかかる値段が下がるのだとか。しかも、大量に刷る作品は文庫にしてもらえて、さらに値段が下がるけど、ちょこっとしか出ない作品は文庫にしてもらえず、その分値段が上がるんだとか。(そうなるとますます売れなくなるのでは?悪循環ですね)

そこで、「ソフトカバーでA5判、本体1,600円」という、えらい高い値段に決まってしまいました。

「こんな高い本、買ってくれるの……?」

って冷や汗出ましたが、印刷の都合ですから仕方ありません……。

表紙とイラストは自作する

作らなきゃならないのは、文章だけじゃありません。中に入れる絵と、表紙もあります。絵はクラウドワークスとかでお金を払って作ってもらえば楽でしょうが、それはお金がかかるし、元々わたしは小学校教員をやっていて、よくプリントに入れる絵を描いていたので、自分で描きました。

けっこう手間取ったのは表紙です。歴史ものなら、それなりにカッコよくしなければ……。そこで、家にあった和紙(学校の先生は無限に紙を持ってるんですよ!)をハサミで切って画用紙にペタペタ……(学校の先生は図工の製作をしょっちゅうやって慣れてるんですよ!)。それで、忠臣蔵のだんだら模様とかを作りました。たぶん、こんなにアナログな作業で表紙を作った著者も珍しいでしょう……。

こんな表紙です

「出版社に忘れられた?」と怖くなる

さて、他のところはどうか知りませんが、わたしがお世話になっている出版社は合理化を図って、必要な時以外、まったくコンタクトを取らないでした。やり取りは全部メールで、電話は禁止。直接会って話すことは一度もありませんでした。(その分の時間や経費を、一冊も多く出版することに回すそうです)

なので、全部原稿のチェックが終わって提出した後、半月以上連絡が全くなし。……合理化なのでしょうが、小心者なのでこれには焦りました。

「実は全部インチキで、出版されることがなかったらどうしよう……」

まるで昔のドッキリみたいに全部嘘だったら立ち直れない……とまで考えましたが、さすがにそんなことはありませんでした。ある日、突然メールが。

「発売日が10月18日と決まりました」

それから一週間ほどして、宅配便で家に大きな段ボールが。中にはぎっしりと、わたしの本が詰まっていたのです!この本を見た時、

「ああ、本当に本になったんだなあ……」

と実感しました。プリントと違って両面印刷されているし、見開きになっている。本当に「本」になっていたんです。この感動は、きっと自分で本を書いている人にしか分からないでしょうね。

本屋で取り扱ってくれなくって呆然

一般に、本が出版された後、著者は忙しいです。自分の本が売れるように、営業しなくちゃなりません。出版社から「注文票」をもらって、手あたり次第に書店を回って

「わたしの本を置いてください」

と頼み込まなきゃならないんです。

なので、わたしも出版社に「本屋を回るから注文票を下さい」とお願いしました。すると「ああ、営業する分には構いませんよ」と、とりあえず三十枚送ってくれました。

さあ、出陣!と勇んで出かけたのですが……ここで思いもよらない事態が!

何と、わたしの本は書店では扱えないと断られたのです!

ある大型書店の店員さんが、わたしが渡した注文票を見て

「ええ!直取引じゃなきゃダメ?これじゃ本を取り寄せることができないよ……」

……つまり、こういうことらしいです。出版社というのは無数にあるので、出版社は問屋にまず本をおろすのです。それが、あらゆる書店に配られる仕組みなわけで……。

ところが、わたしがお世話になっている出版社は、問屋に一切本をおろしておらず、アマゾンで販売していたのです。だから書店は直接、出版社に問い合わせて本を注文しなくちゃならないし、その出版社のために新しく銀行口座を開かなきゃならない。「一冊の本のために、そんな面倒なことできないよ!」というわけです。

しばし、書店の中でバカみたいに呆然。

ということは、あんなに苦労して書いた本なのに、書店に並ぶ栄光の姿は絶対に見られないということに……。

いえ、それよりもですね、書店に並ばないということは、「買われる可能性がムチャクチャ低い」ってことじゃないですか!アマゾンには配本されるそうですが、書店に並ばないのは真剣に痛いです……。

地元はありがたい

ところが、一つ本当にうれしかったことが。

ダメもとで何軒目かに回った、近所の個人営業の本屋さんが

「地元出身の作家さんなの?じゃあ置くよ!店頭にずらっと並べるからね!」

と!

これほど近所の商店街の存在を「ありがたい」と思ったことはなかったですね。それに、その後も営業を続けて、近所の薬局や病院に

「待合室に置かせていただけますか」

と問い合わせると

「もちろんだよ!へえ~、作家先生になったの!お客さんにも宣伝しとくからね」

「ホントは本社から怒られちゃうんだけど、常連さんだからね。こっそり置いとくよ!がんばってね!」

と、温かい返事が。それから地元の図書館にも献本したのですが、

「地元の作家さんですか!分かりました、置きますよ」

と二つ返事。

最近、地域の絆がなくなっているという暗いニュースが飛び交う世の中ですが、まだまだ日本は捨てたもんじゃないです。皆さん、地元を大事にしましょうね!

重版されないと2冊目がない!

ところで、作家にとって初出版はゴールじゃありません。この初出版が全然売れなかったら、

「ああ、この作家は力がないんだ」

って、お世話になってる出版社はもちろん、他の出版社から見限られてしまうのです。現実は厳しいです。だから作家は初出版の本が売れて、重版になるのを目指さなければなりません!

わたしが歴史作家を目指そうと思ったのは、好きなキャラクターが大勢いるからです。山中鹿之介、曾我兄弟、真田十勇士……挙げればキリがありません。こうしたキャラクターの本を今後も出していけるように、何とか本を売って、重版を目指さないと!

……それにしても500部ですからね。書店に並ばない、アマゾンだけの本が500冊も売れるのかな……?

心配でめまいがしますが、書店に並ばない以上、ネットで働きかけて集客するしかありません。

ここまで読んでくださった皆さん。もし気の毒だと思ったら、どうぞ応援してくださいね。

もしあなたの周りに歴史が好きそうなお友達がいたら、「忠臣蔵より熱を込めて」っていう本があるよって一言宣伝してくださいね!

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著者プロフィール

坂口 螢火
坂口 螢火
歴史専門のライターを目指しています。

古典と神話が好きすぎて、ついに家が図書館のように……。

1月30日に、拙作「曽我兄弟より熱を込めて」が販売されます!立ち読みも大歓迎。ぜひ読んでね!

出版した本(キンドル版)

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Posted by 坂口 螢火