【忠臣蔵】赤垣源蔵ってどんな人?徳利で別れた花の兄弟

2021年10月8日

忠臣蔵にはたくさんのエピソードがありますが、メルクリウスの一押しは「赤垣源蔵(あかがきげんぞう)徳利(とっくり)の別れ」です!

この「徳利の別れ」、むか~しの映画「忠臣蔵」(主演、長谷川一夫)でやってましたよ。赤垣源蔵役は、若き日の勝新太郎!若すぎて別人みたいですが、やっぱりうまい!涙なしには見られない名演技でした。ぜひ見てね。

このページでは、その「徳利の別れ」で有名な赤垣源蔵の生涯やエピソードを紹介します。

赤垣源蔵は赤垣じゃない!

実は、赤垣源蔵は「赤垣」という苗字じゃありません。ホントの名字は「赤埴(あかはに)」といいます。

でも、小説とか映画とか講談とかでは必ず赤垣……。どうしてこうなったかと言いますと、それがあまり感心しない理由です。

忠臣蔵は討ち入りしたその直後からエライ人気で、義士たちが切腹した十二日後にはすでに芝居化されるほどだったのですが……やっぱり江戸時代はけっこうテキトーでした。赤埴源蔵は講談にされたとき、漢字をミスられて「赤垣」にされてしまったのです。そのマチガイ苗字が全国に広まりすぎ、未だにず~っと「赤垣源蔵」と呼ばれてるのでした。

簡潔に!赤垣源蔵ってどんな性格?

とにかく大酒飲み!四十七人中トップの酒量。大変のんき。けっこう陽気。あんがい優しい。とにかくいつでも酔っ払い。お兄さん大好き。

赤垣源蔵、涙の徳利エピソード

赤垣源蔵は赤穂藩が健在だった頃は、200石の馬廻り役。内匠頭がご馳走役になった時、江戸にいました。刃傷事件が起こった時はまさに江戸城にいて、大手門で役人から「内匠頭刃傷」のニュースを聞いたのです。(この時の状況は、吉川英治の小説に詳しいぞ!)

殿様の無念を晴らすべく、仇討ちを決意した赤垣源蔵。堀部安兵衛らと一緒に、江戸に潜んで吉良の動向を探ります!そしてついに、討ち入りの十二月十四日が訪れたのでした……。

お兄さん、まさかの不在!涙の徳利の別れ

今晩は討ち入り。自分の命も今宵限りかもしれません。赤垣源蔵は実のお兄さんの塩山伊左衛門(いざえもん)が江戸にいるので、それとなくお別れをしようと、兄の家を訪れます。

さて、このお兄さん。源蔵がメチャクチャ酒飲みで、いつもお兄さんの家で酔いつぶれてしまっても、色々やらかしても、「我が弟はただの飲んだくれじゃない」と言ってくれる、実によくできた兄。しかし、お兄さんは優しかったけど、お兄さんの嫁さんはそうじゃなかったのです。

嫁さんにとっては、源蔵はしょっちゅう家に来ては飲んだくれてる、サイテーな義弟に過ぎません!「オオ嫌だ、また飲んだくれてる……」と、厄介者扱い。最近では、源蔵の顔さえ見れば仮病を使うようになってました。

だからこの時も……

「頼む、頼む」

と源蔵がお別れにやって来たのですが、嫁さんは「え!また、あの酔っ払いが来たのかい」と、さっさと奥の部屋にこもって寝たフリしてしまいました。源蔵のところへやって来たのは、下女のおすぎ。

「まあ、源蔵様。こんな大雪の中をいらっしゃったんですか。あいにく、旦那様(お兄さんのこと)はお留守でございます」

「な、なに!お留守?」

まさかのお兄さん留守に源蔵は仰天!今生のお別れに来たというのに、肝心のお兄さんがいないのです!

「嘘をつけ!こんな大雪でお出かけになられたというのか」

「はあ、殿様の急な御用で、赤坂へ……」

「そ、そうか。とにかく待たせてもらうぞ。もしかしたら、もうすぐお帰りになるかも……」

お兄さんは留守だし、嫁さんは仮病。源蔵はたった一人で座敷に座り込み、必死に待ちます。「源蔵様、そんなところでお寒うございましょう……」と、おすぎはオロオロ。

ひたすら待ち続けていた源蔵でしたが、時間はそうありません。今夜は討ち入り。同志たちとの待ち合わせ場所に行かなければなりません。

「ああ、もう駄目か……」

ついにガックリあきらめて、おすぎを呼びます。

「おい、おすぎ。そこに、兄上の紋付き(着物)が掛けてあるだろう。それをな、床の間にかけてくれないか」

言われた通りにおすぎが着物をかけると、源蔵はその前に手土産で持ってきたお酒を置きます。

「これは、兄上がお好きな矢野の諸白だ。これを召しあがってもらいたかったが……」

おすぎを下がらせて、源蔵はその前に座り、着物を兄の代わりにして別れを告げます。

「さて兄上、本日はお暇乞いにうかがいましたが、あいにくのご不在。源蔵力無く帰ります。万年の御寿命を過ぎた後、泉下にて、これまでの御礼、申し上げる存念にございます」

涙ながらにこう言って、源蔵は寂しく去って行ったのでした……。

徳利を前に弟をしのぶお兄さん

何という運命のむごたらしさでしょう。翌朝、赤穂義士たちの仇討ちはまたたく間に江戸じゅうに響き渡り、お兄さんの耳にも入ります。

「義士たちの中に、弟の源蔵はきっといる!確かめてまいれ!」

お兄さんは下男を走らせて、源蔵を探させます。(仇討ちしたから、義士たちは罪人扱い。他家にお仕えしているお兄さんは会いに行くわけにいかないのです)息を切らせて下男が走って行くと、ちょうど義士たちが泉岳寺へ引き上げていくところ。

「源蔵様!源蔵様あ!」

「お、お前は……!」

下男と源蔵は奇跡的に出会います。「よかった……。お前に合うことができれば、兄上にお会いしたと同じことだ……」と、源蔵は涙を流す下男に、短冊や呼子を自分の形見として渡します。そして、「兄上に渡してくれ」と下がらせたのでした。

その後、下男から一部始終を聞いたお兄さん。「ああ、源蔵よ。わしはなぜ、昨日留守にしていたのか!一目この兄に会いたかったろうに……!」と、夕べ源蔵が残していった徳利を床の間に置き、それを源蔵の代わりにして別れを告げたのでした。

いかがですか。涙なしには語れないエピソードです!日本人なら泣いてください!

史実ではこうだよ。源蔵、最後の暇乞い(いとまごい)

史実では、赤埴源蔵は実は下戸です。甘党でお酒はあまり飲まなかったそうです。(付き合いで飲む程度)

江戸に家族がいたので、十二月十四日にお別れに行ったことは事実ですが、その家族というのもお兄さんではなくて妹でした。実の妹の嫁ぎ先が江戸にあったのです。なので、妹と義理の弟(とっても仲が良かった)に会いに行きました。

大雪でしたから、二人ともいました。妹夫婦の他に、義父も在宅だったそうです。しかし、この義父がやらかしちゃいます。この時、源蔵は討ち入り寸前だったのでいつもよりいい服を着ていたのですが、

「何で今日はそんな美服なのじゃ」

と怪訝な様子。源蔵は答えに詰まります。浪人生活だったので、最近はいつもヘロヘロな着物しか着ていなかったのです。

「実は……仕官先が決まりまして」

とごまかしますが、これに義父が大激怒。

「なんじゃと!殿様の仇討ちもしないで、他へ仕えるつもりなのか!この不忠者め!」

と、追い出してしまったのです。……他家の侍が「もう恩を忘れたのか!」と怒るくらい、内匠頭って評判良かったんですね。

大誤解されたまま別れなきゃならなくなった源蔵。しおしおとうなだれて、寂しく去って行ったんだとか……。これって芝居の内容よりもやりきれないですね。会えないまま別れるのは、まだキレイな別れ方ですけど、ムチャクチャ怒られたまま別れるって切なすぎです。現実って厳しいですね。

翌朝、源蔵が仇討ちしたことを知った妹夫婦と義父は

「ああ!昨日はお別れに来たのか!そうとも知らず、あんな帰し方をしてしまった……」

と、ものすごく後悔したんだとか。これも一生引きずりますね……。

講談エピソード。赤垣源蔵の酒飲み対決!

 

さて、赤穂義士の中で大酒飲みと言えば、赤垣源蔵と堀部安兵衛の二人です。……実はこの二人、内匠頭の前で酒飲み対決をしたことがあるってご存知ですか?

安兵衛が内匠頭の家来になった時のことです。内匠頭が安兵衛の義父の堀部弥兵衛じいさんに

「安兵衛は並々ならぬ大酒と聞いておる。武林唯七といずれが飲むであろうか」

「唯七もなかなかの酒豪なれど、安兵衛にはかないませぬ」

「ふむ、小山田庄左衛門とではいずれじゃ」

「まず、大人と子供でござりましょう」

「では高田郡兵衛(ぐんべえ)とは……」

「赤子と大人でござります」

「では、赤垣源蔵とは?」

ここで弥兵衛じいさんも「むむ……」となって、とうとう赤垣源蔵と堀部安兵衛の酒飲み対決が開かれることになりました!賞品は天下の名刀、来国俊(らいくにとし)の一振り。

まずは両人、三升軽く飲んでしまってから、一升五合の大杯を五つずつ並べて、グイグイ飲むわ飲むわ……。一杯、二杯と飲み干していきます。弥兵衛じいさんは大騒ぎで

「これ!安兵衛、負けるな!」

と両腕振り上げて必死の声援。しかし四杯目で、安兵衛はフラフラになってきました。なんとか気を取り直して四敗目をグーッと飲みましたが、もう真っ直ぐ座っておられません。

それに比べて、赤垣源蔵はまるでバケモノ!ちょっと顔が赤い位でケロリとしています。安兵衛は「いかん!これじゃ負ける!」と一生懸命。弥兵衛じいさんも無我夢中。

「ほれ!安兵衛、そこだ!しっかりせい!一気に飲め!」(決してマネしちゃいけません)

安兵衛、目が回ってヨロヨロなのですが、「ええ、確かに頂戴しましたぞ!」と、何とか飲み切ったのです。源蔵はケロッとして、ゆうゆう飲み切る。内匠頭もこれを見て、

「赤垣の方が強いようじゃな」

と、判断しました。安兵衛は飲んだとたん、ぶっ倒れました。

堀部安兵衛について詳しく知りたい方はこちら↓
堀部安兵衛、生涯に仇討ち三回!忠臣蔵の大立者

まとめ

赤垣源蔵、講談でも現実でも可哀想な人ですね。どっちかっていうと、メルクリウスは講談エピソードの方が好きですね。義父に怒鳴られるっていうのは、やっぱり後味悪いですし。講談の「浪人していた間も、ずっと親切にしてくれるお兄さん」っていうのは、何とも兄弟愛が光っていてロマンです。

それに、やっぱり赤垣源蔵は大酒飲みでいてほしい!わたしも酒飲みだから!

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著者プロフィール

坂口 螢火
坂口 螢火
歴史専門のライターを目指しています。

古典と神話が好きすぎて、ついに家が図書館のように……。

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Posted by 坂口 螢火