【曾我兄弟】工藤祐経は何で兄弟のお父さんを殺したの?徹底解説!

2022年7月11日

曽我兄弟の陰の主人公というべき、仇の工藤祐経(くどうすけつね)!
曽我兄弟といえば、「お父さんのかたき討ちをした、あっぱれな兄弟」。つまり、祐経が兄妹のお父さんを殺さなかったら、そもそもこのお話は丸ごとなかったんですから……。

しかし、「曽我兄弟」を読んで、誰もが謎に思っている事実。「そもそも、何で祐経はお父さんを殺したの?」

これ、実はけっこう複雑な事情が絡んでます。このページでは、祐経の「お父さん殺害事情」をどこよりも分かりやすく解説しましょう!

曽我兄弟のご先祖は色気ジジイ

さて、ことの始まりは、曽我兄弟の一門、伊東一族の血縁関係に端を発しています。

「伊東の一門広かりけり」と曽我物語にも書いてありますが、この一族、伊豆半島を中心にメチャクチャ数が多いのです!ぶっちゃけ、本人たちも把握しきれてないだろう!と思うほどです。

その原因は、一人の男につき、先妻、後妻、さらなる後妻、ついでに妾と、女を何人も囲って、子供を大量生産していたから。武士の体力と財力にあかせて、まるでウサギさんみたいに繁殖しまくっていたのです。

さてこの伊東一門のリーダーに工藤祐隆(すけたか)という男がいました。この祐隆、

「こいつ……ホントに曽我兄弟のご先祖?」

と疑うほど女癖の悪い奴。正妻が死んじゃった後、「今後は長男の成長を楽しみに過ごそう」な~んて言ってたくせに、すぐさま後妻をゲット。しかも!この後妻の連れ子に「水草」という娘がいたのですが、この娘まで手を付けるのです!しかも子供まで産ませます。

つまり、養女に手を付けて子供産ませたってこと!

なんという最低さ……!でも権力者だからみんな見ないフリ……。

イジメられる伊東祐親

こーゆー色気ジジイがトップだと、一族も苦労します。一番ヤな目に遭わされたのは、言うまでもなく祐隆の長男。

祐隆は若くってカワイイ水草に溺れ切って、しかも年取ってから子供ができたもんですからデレデレ。この子ども、祐継(すけつぐ)という名前なのですが、祐隆は祐継が可愛くって仕方がないもんだから、とうとう

「オレの財産は全部祐継に譲る!」

と言い出します!これには周囲も激怒!

「長男はどうするんだよ!」

「ふざけんなよ!娘を犯して作ったガキだろ!」

と、怒り心頭です。しかも……長男はあまりのショックでポックリ死亡。

しかし!色気ジジイの祐隆はこんなことじゃ凹みません。「どう言われようが財産は祐継のもの!他の奴らは追放してやる!」と、長男の息子、祐親(すけちか)を屋敷から追い出してしまいます!

……この祐親こそ、曾我兄弟のおじいさんです。

祐親おじいさん、可哀想に……。屋敷から追い出され、河津に追っ払われ、財産は一門もやらんと完全無視!こんな最悪な話が他にありましょうか。

でも、祐親はなかなかの慎重派です。

「ジジイが死ぬまでまとう。なあに、どうせ長くないさ。ジジイが死んだら、俺が伊東をもらうんだ」

と、地道に時節到来を待つのでした。

時節到来!祐親、祐経をハメまくる!

さて!祐親が待った天運が、ついに巡り来ます!

じいさんの祐隆が死亡。ついで祐継まで、イキナリ肺炎になってバッタリ倒れたのです。

当時の医学じゃ、肺炎になったら間違いなく死亡です。あっという間に枕が上がらなくなった祐継、泣きの涙で息子を抱き寄せ

「オオ、不幸な子だ。お前はまだ九歳なのに、もう父は死んでしまう……。この先誰がお前の面倒を見てくれるだろう」

と悲しみます。何を隠そう。この九歳の子供こそ、その後の祐経。曽我兄弟の宿敵になる奴です。

と、そこへ、伊東祐親が「しめしめ」と登場。ついに復讐開始です!

「ご案じなさるな。この子のことは、祐親が後見となって面倒を見ましょう。決しておろそかには致しませぬ」

「おお、祐親、そう言ってくれるか!お前が祐経の面倒を見てくれるなら、もう安心だ。祐親よ、そなたには大勢の娘がいる。ゆくゆくはその一人をこの子と結婚させ、さらに強い絆で結ばれてほしい」

こんな風に、散々祐親をイジメたくせに、面倒なことは全部なすりつけて、祐継は死亡します。

でもですよ?ムチャムチャ恨みに思ってる祐親が、大人しく祐経の面倒を見てやるはずありません!

「こんなクソガキに財産をやるもんか」

祐継の遺言通りに、自分の娘を祐経の嫁にし、うまうまと義理の父となった祐親。伊東の領地を堂々と横領したのでした!伊豆半島を半分とちょっと手に入れたということですから、ものすごいお金持ちですね。

成長した祐経、リベンジなるか?

でももちろん、工藤祐経もいつまでも子供じゃありません。

育つにつれ、「あっ!祐親の奴、俺の領土をまるまる盗みやがったな!」と分かってきます。怒った彼はご公儀に涙の訴え。……でも、祐親は油断ありません。先手を打って、お役所に金銀、賄賂をたっぷりと送っていたので、祐経の必死の訴えは全部無視されたのでした。

「ちくしょ~、見てろよ!」

と、祐経は泣きの涙で、当時大勢力を誇ってた平家に訴訟。必死の努力の末、やっと耳を貸してもらったんですが、結局元の領地の半分しか取り戻せませんでした。

祐経、奥さんまで取られる!

領土を半分返すことになった祐親、面白くありません。

「祐経の奴、油断がならんわい。今のうちに娘を取りかえしておこう」

と考え、祐経の嫁にしていた娘をムリヤリ取り返し、他の男に嫁がせてしまったのです。

……ここでついに祐経、キレます。

「あのじじい、もう生かしておけぬわ!」

部下たちに命令して、「祐親をぶっ殺せ!」と刺客を送ります。

ところが殺せたのは祐親の息子の河津三郎だけ。当の祐親は、よっぽど強運の持ち主だったのでしょう。ぴんぴんして生き残ってました。

まとめ

う~ん、どう考えても、一番悪いのは祐経じゃなくって、クソジジイの祐隆ですね。こいつが祐親をもっと可愛がってくれれば、こんなことには……。っていうか、そもそも色気ジジイじゃなければよかったんです。

でも、一番不幸なのは曽我兄弟のお父さんですね。祐経の殺人動機は領土争いだったわけですが、お父さんは全然関係ないです!身に覚えがないことで、いきなり殺されちゃったお父さん……。可哀想すぎです。

著者プロフィール

坂口 螢火
坂口 螢火
歴史専門のライターを目指しています。

古典と神話が好きすぎて、ついに家が図書館のように……。

1月30日に、拙作「曽我兄弟より熱を込めて」が販売されます!立ち読みも大歓迎。ぜひ読んでね!

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Posted by 坂口 螢火